【インタビュー】仮屋崎郁子さん後編・「最上のもり立て役」目指すプロ意識

桜桃庵第四回インタビューは、ちんどん通信社所属・仮屋崎郁子(かりやさきいくこ)さんのお話です。

 

ちんどん通信社・林幸治郎氏と仮屋崎さん

 

前編では”優等生”だった仮屋崎さんがプロのちんどん屋になるまでの過程と、その背景についてお話を伺いました。
(仮屋崎さんのご紹介記事はこちら/インタビュー前編はこちら

ところで、私が初めて仮屋崎さんを拝見したのは昨年の「林幸治郎のちんどん芸能マニアックサロン」で、いつかインタビューをさせて頂こうとその日のうちに決心しました。

 

 

それはパフォーマンスを始められる前の佇まいから美しく、またいったんステージが始まると、林社長のお話と歌とのつなぎ方や、歌い手さんの引き立たせ方が自然で素晴らしかったからです。

空気の読み方とその反映のさせ方が、まさにプロフェッショナルだと感じました。

繊細な感性とテクニックと経験がないとこんな風にはパフォーマンスできないと思い、仮屋崎さんがどのように考え、どのような意識をもって活動されているのか知りたくなったのです。

それでは、仮屋崎郁子さんのインタビュー・後編です。

 

 

プロのちんどん屋として

やりがいと苦労

―「ちんどん屋」というお仕事の最大の魅力は何でしょうか?

いろんな方と出会うことです。自分自身がたくさんの方に出会えるのも勿論ですが、その場に居合わせた知らない方同士が会話したり、波及効果があるんです。アナログなコミュニケーションですね。

―どんな時にやりがいを感じられますか?

その時その時のお客さんや場の雰囲気などを感じ取って演出するので、自分の選んだ曲や自分の動き・歌声などで場が和んだり、いい空気を作れたりすると嬉しいですね。

それと「今、すごい場に立っているな」と思う瞬間があります。
最近ですと、林社長が母校である修猷館高校の「平成30年度中京修猷会総会」に講師として招かれ、実演には川口と私も参加しました。林曰く当時は劣等生だったようで、コンプレックスもあったのかもしれません。しかしその現場では皆さんがとても集中して観てくださっていて、本当にいい空気でした。林も川口もすごく一生懸命やっていて、会場の熱も高まって…「今、素晴らしい瞬間に立ち会っているな。私、幸せやん。」と思いました。

―この瞬間があるからやっていける、という奇跡のような時間ってありますよね。

 

―では逆に、大変なことやつらいことは何でしょう?

すべてクライアントさんのご希望どおりにできればよいのですが、「そのやり方では意図する成果が望めないな」ということがたまにあります。それは私たちが蓄積してきた長年の経験で分かることなので代案を出すのですが、理解していただくのが難しいことがあります。

それと今ではめったにないことですが、ちんどん屋を蔑む方がいることです。汚い、うるさいイメージを持つ方も少なくありません。また歴史的な背景から蔑視する方もいます。
そのような方がいる現場ではマイナスからの出発となりますが、私たちのパフォーマンスをご覧になってイメージとのちがいに驚かれ、最終的には理解していただけることもあります。

「芸能と被差別」という歴史的なことを学ぶのは興味深いと思いますし、その年代・その時期の芸能や流行りを採り入れて仕事が成り立っていることもこの仕事の面白さです。

―ちんどん屋を辞めたいと思われたことはありますか?

あります。特に昔は「このままやっていっていいのかな?この道を究めるのは難しいかもしれない。別の道に行った方が生活は安定するかもしれない。」と思っていました。未来があるのかよく分からないですし、社長のところまで行きつくのは本当に大変なことですので。

 

 

ちんどん屋の基本は街歩き

―これまでで最も印象に残っているお仕事を教えてください。

まだ新人の頃、道頓堀でラブホテルの宣伝をしたことがあり、3時間で500枚のチラシを配りました。終わった時、「3時間で500枚…ということは、私は今日、500人の人に出会ったんだなあ…」としみじみ思ったことがあります。
楽器の演奏も大事ですけれど、チラシ配りも深いです。

―楽器を演奏したり口上を述べたりする時とはちがい、チラシを配る時だけは”一対一”ですね。渡し方によっては、受け取る側が「ただ数をさばくために押し付けられた」と感じることもあれば、「私にくれた一枚」と感じることもあります。

そうなんです。
チラシ配りは私たちが依頼主に成り代わって行う挨拶回りであり、チラシ自体は依頼主とお客さんとをつなぐツールです。チラシ配りには演奏する本体が手の届かないところに挨拶に行く面もあり、配る人によって空気感は変わります。配り手次第で本体が居やすくなることもあります。
「私にくれた」「私を選んでくれた」と思ってもらえるチラシ配りが私の理想です。「化粧をして衣裳をつけ、音楽を奏でている私たちからもらう一枚である」ということをよく考え、情緒を大切にしたいと思っています。いつでも理想通りにできるわけではないので、ジレンマもあるのですが。

―チラシに内容以上の意味を持たせることができるのは、ちんどん屋さんならではですね。

ステージだけではなく、実際に街を練り歩く仕事をこれほどしているところは、他にありません。街での仕事がしっかりできないとプロのちんどん屋とは言えないと思いますので、チラシ配りはとても大切な仕事です。今ではいろいろな仕事がありますが、ちんどん屋の基本はやはり「路上」ですので。

 

 

良いパフォーマーとは

 

―役者やダンサーにも言えることですが、「上手いだけ」「一生懸命やるだけ」では評価されない仕事だと思います。プロのちんどん屋として”良いパフォーマー”とは、どのような人だと思いますか?また、そのためにご自身で意識されていることはなんでしょうか?

「最上のつなぎ役であり、もり立て役」ですね。お客さんに対して謙虚であることを心掛けています。

 

―道行く人の興味をひかなければならない反面、個人だけが目立ってもいけませんよね。バランスが大事だと思いますし、仮屋崎さんはその感覚が非常に繊細でプロ意識の高さを感じます。

ありがとうございます。何が正解なのかはいつも分かりませんが、そうある努力はしたいと思っています。ちんどん屋として街回りをしている時、個人名はなくなり何者でもない”ちんどん屋さん”になります。いろいろなものを受け止めて仕事をしないといけません。
でも、たくさんの方の視線をまともに受け止められるようになったのは、ここ2年くらいなんですよ。
私はもともと人の視線を浴びることに慣れていなかったし、向いていないと思っていました。どう受け止めていいのか、どうしたらいいのか、分かりませんでした。

 

―視線といえば、たとえば役者は台詞を言ったりアクションをしたりすること以上に、”ただ立っているだけ”の状態で大勢の視線を受け止めることの方が難しいと感じます。技術に「逃げられない」という意味で。

分かります。私も以前は「演奏している時はまだラクなのにな」と思っていました。実は人前で”ふつうに”立っていられるようになったのは、つい最近なんですよ。

街歩きをしていて、自分が通り過ぎる側の時はその視線をよけようと思えばよけられる。でも受け止めるしかない現場もありますよね。その中には私たちに期待しながら見ている人もいれば、なんとなく見ているだけの人もいるし、まったく期待していない人もいる。
ただ、気を抜いたら悟られてしまうのは同じです。どう立ち居振る舞うかはすごく難しい課題で、ずっと「佇まい」をどうしたらよいか考えてきました。

 

―ちんどん屋に限らずあらゆるパフォーマーは、「ああ勝手にやっている」と感じさせる人と「私(たち)にやっている」と感じさせる人に分かれます。でも仮屋崎さんのパフォーマンスはいつ拝見しても後者で、外に向いて開かれています。

楽器を演奏する時はどう見せるか。演奏していない時はどうするか。私は身体のことは器用じゃないから、なるべく意識してやってきました。どの瞬間にも「ああ素敵だな」と思ってもらえるようになりたいですね。

―常に正面だけから見られるわけではありませんね。

はい、後ろ姿も重要だと思っています。
それから、気持ちも外に向かって開いて、今いる街の空気や、歩いている人・通り過ぎる人・姿は見えないけれど家の中で聞いている人たちの存在を受け止めること。ちゃんと気配を感じること。それをしないと、”勝手にやっている”となってしまいます。

 

―そういったことを考え意識されていらっしゃるからこそ、仮屋崎さんのパフォーマンスはいつ拝見しても気持ちがいいし、格好いいのだと思います。

そう言っていただけると、努力してきたことが少しは身に付いたかなと…そして自分が大切にしていることを理解してくださる方がいらっしゃるということが、とても嬉しいですね。

 

 

今後の展望

 

―個人的にこれから挑戦してみたいことはありますか?

時間やお金の問題はありますが、いつか三味線と唄は挑戦したいです。

 

―ちんどん通信社さんのHPやSNSはありますが、仮屋崎さん個人としては発信されていませんね。SNSを始められるつもりはありますか?

いいえ、今のところありません。アナログなんです。それに神経を使い過ぎてしまいそうで。

 

―漠然とした質問になってしまいますが、一人のちんどん屋として、将来どのようになっていきたいとお考えですか?

将来のこと、本当はシミュレートするべきなのですが…今はやらなければいけないのにできていないことが目の前にたくさんあるので、それに精一杯です。「これでいい」というのがない世界ですので。

ただ、「あの人に頼んだらどうにかなる、面白いことをやってくれる」と思ってもらえるような存在にはなりたいです。提案力があって、主催の方の身になって考えられるような。
宣伝しかできないのではなく、林のように一件ごとの相談を受けられるように、その信頼を得られるように、なっていきたいです。

そのためには、いろんなことを身に付けなければなりません。とは言え膨大な芸能の中から、まず何に手をつけたらいいのか分からなくなります。でも林が30年以上勉強・経験・整理してきたものを惜しげなく見せてくれるので、「これを聴いてみよう」とか「これを覚えよう」というのが増えてきました。

また最近、ずっと応援してくれた方がお亡くなりになりました。その方がどこかから見ていらっしゃると思って、いつ見られても恥ずかしくない仕事をしたい。それが私の物差しの一つです。

 

―最後に、宣伝しておきたいお仕事があればぜひお願いします。

毎月第一日曜日、四天王寺さんの「わつか市」には内野と私が出演しておりますので、ぜひ遊びにいらしてください(今年は10月はお休み)。

また7月24日に天満天神繁昌亭で行われる『花團治の会』に、「林幸治郎と歌声姉妹」として出演させていただきます。

 

―「林幸治郎と歌声姉妹」は社長と仮屋崎さん、そして歌手の青木美香子さんによるユニットで、「ちんどん芸能マニアックサロン」に出演される”いつものメンバー”ですね。

はい。実はこのサロンを見てくださった桂花團治師匠に、「サロンに出ていたメンバーで」とご指名いただいたんです。ふるえました。緊張しますが、前座として良いバトンをお渡しできるよう頑張ります。

 

―仮屋崎さんの真摯さとストイックさが実感できるインタビューでした。

ゴロゴロしている時ももちろんあるのですが、一つ一つの仕事を大事にして、自分がどこまでやれるのかということに挑戦していきたいですね。

―興味深いお話をたくさんお聞かせいただき、どうもありがとうございました!

 

・仮屋崎郁子さんの活動の詳細はこちら⇒ちんどん通信社

スポンサーリンク