【インタビュー】葡萄栽培家・小川徹さん後編「自分を感動させたい」

桜桃庵インタビュー第五回では、人気バーテンダーから葡萄栽培家に転身された小川徹さんにお話を伺っています。

 

 

前編では主に過去を振り返り、夜の世界からの引退と当時の胸の内、また農業という道に至るプロセスを赤裸々に語ってくださいました。
(小川さんのご紹介記事はこちら/インタビュー前編はこちら

小川さんが独立し営農を始められて3年目。

今回は、その収穫期も終わりに近付いた現在の様子や葡萄栽培家の日常、そして彼の見据える将来のことをお届けいたします。

それでは、小川徹さんのインタビュー・後編です。

 

 

小川徹農園、営農3年目の収穫期を終えて

 

葡萄園の秋

―10月に入り生食用葡萄の一般販売も終了、一息ついていらっしゃる頃でしょうか。

いや、もうすでに来年を見据えた準備に入っているよ。今年の春に新植した園地でのパイプ立てとかね。土木の秋です。

 

 

―こういうところ(↑)が葡萄棚になっていくのですね。お手伝いさせていただいたナイヤガラ畑(↓)のように。

 

 

そう、あんなふうになる予定で、数年後にはビニールで屋根がかけられるようにするつもり。

―何年で最初の収穫に至りますか?

品種にもよるんだけど、量にこだわらなければ3年目には少量収穫できる予定だよ。
もう植えるべきものは植えたから、3年後を見据えながら育てていく。個人の農園経営としてはそういう段階。

―秋冬も葡萄農家さんはお忙しい?

今月はこの棚や垣根作り、機械やハウス内の片付けと、補習作業。来月には剪定を始めて、12月にはその仕上げ。この時期からは雪が降ればその都度、棚の雪下ろし…これはできればやりたくない作業の一つね(笑)

年が明けたら事業計画を練って、各方面との打ち合わせも多くなる。あとは税務関係の処理。3月には棚締めをして芽吹きに備える。春まではだいたいこんな感じ。

 

営農3年目の感想

 

―葡萄栽培という仕事はご自身に向いていると感じますか?

うん、そうとう向いてる!
毎年毎年、今までやったことの中で一番結果を出せている。必要とされてるし、やりがいがあるし、楽しいし。

植物の世話をしてそれなりに暮らせるって幸せかも。それだけじゃない活動もあるけれど。

―つらいと感じることはありますか?

俺、この仕事をつらいとか苦しいとか、一度も思ったことがないのよ。そりゃ大変な作業はあるけどね、イヤだ、辞めたいなんて思ったことない。苦痛と思ったらやってないよ。

―では逆に、嬉しいのはどんな時?

「この葡萄すごいですね!どうして!?」となった時が一番!

今は葡萄に生かしてもらっているから、お客さんに買ってもらって、美味しいと言ってもらって、結果が出てから「ありがとう」という充実した気持ち。

 

「高畠の景色を変えていきたい」

―小川さんが2016年に7反から始められた農園は、翌2017年に9.5反、今年2018年には1町2反と少しずつ広がっていますね。今後さらに広げられるご予定ですか?

俺は一人でやる前提だからあまり農園を広げたくないんだけど、色んな人の想いが込められすぎて何とかしたいなあと思う園地もある。ただ個人としては1.5町が目処かな。

あとは人を呼びたい。新規就農者を増やさないと。

―初日に数ヵ所にある園地を案内していただきましたが、その間を移動する際にはぽっかりと空地のようになっている箇所もありました。

そういう荒れ地を園地にしていきたんだ。少しずつ、景色を変えていきたい。

早く栽培家として一人前になりたいし、葡萄農家の魅力を伝えて広めることも急務。今はそれを並行してやっていて、実務もあるから頭パンパンですよ。

―それでも今後の指針が明確なのは分かります。

うん。個人としては、醸造用葡萄における最高品質の追求。それから情報を伝えて人を育てることの二つだね。

―ではその二点について詳しく伺ってまいります。

 

 

小川徹さんが目指す高み

小川徹農園の葡萄が安全で美味しい理由

 

―小川さんの作られている葡萄はどれも本当に美味しくて、一粒一粒に感動してしまいます。小川徹農園の葡萄栽培の特徴があれば教えてください。

健全に作れるものは健全に作ろうと、減農薬と、生食用の葡萄では除草剤不使用に挑戦している。

世の中には防除暦という指針があって、その通りに農薬散布すると間違いなく作物は収穫できると思う。
でも防除暦より格段に回数を減らしてできているケースもある。特にビニールハウスでは病気は起こりにくいから、超減農薬が可能になる。
ただビニールを使うことが環境にどうこう考え始めると、どちらがよいのか賛否はあるかもしれないね。

俺は結果として、たとえば10回散布するところを3回で作ることができている。

―回数を減らすとどんなリスクがありますか?

害虫による被害が出る可能性は高くなる。だけどある程度健全に育てば、木の方で樹勢を回復してくれる。
そのためには木を労わること。俺は葡萄園に毎日行って、とにかくよく観察するようにしている。

それに実は、減農薬には他のメリットもあるんだよ、生産者への体の負担軽減というね。
一番近いところで農薬の曝露を受けるので、マスクや防除用着衣があっても農薬を吸い込むリスクが高い。
「単純に回数を減らすことで寿命が延びないかな、俺まだ葡萄農家としてやりたいこといっぱいあるしな」という考え。

 

―他に工夫されていることはありますか?

日照を確保している。葡萄のすべての房の一粒一粒に光が当たるようにね。

日が全体に当たるように想定して配置を決める剪定や誘引、肥料の配分を決める肥培管理といった、頭を使う作業が俺は好き。想像や計算は楽しいね。

植物に良い環境と、人にとって都合の良い環境。そのバランスをずっと見ながら仕事しています。

―小川さんにとって畑はどんな場所ですか?

ホームで仕事場で遊び場。なんせいつもいるから(笑) ただ寝場所じゃないだけ。

 

一葡萄栽培家として目指す将来像

 

―葡萄農家として小川さんの目指しているところを教えてください。

安全・安心、最高品質。相手の要望全部に応えられたらいいなと思っています。
ただ、それだけではない作り方もあるからね、ワイン用なんかだと。

全部知り尽くしたい。その前に死んじゃうかも知れないけど。

―最高の心意気ですね。

本音は、本音はね。俺にしか作れないものっていうのを目指しています。
期待値が高すぎて容易には上手くいかないけど、引くに引けないから前進あるのみなんだろうな。

―そもそも引く気がないですよね。

ははっ。折れるとこは折れるけど本筋は曲げないという搦手使いだから。ワイン・葡萄で色んな高みを目指しているから妥協はできないんだよね。

葡萄農家になると決めた時に俺が最初に思ったことは「職人になりたい」だった。
40過ぎて営農始めて、60代までに「葡萄栽培の職人」と言われたい願望があったの。個人的な名誉欲だよね。

でも今、これが小さなことに見えるくらい大きな目標があるんだ。

葡萄栽培を業界として大きくしていくこと。そのために互助の精神を基本として支え合っていくしくみを作っていきたいんだ。

―ご自身の農園のことだけではなく、高畠の葡萄栽培の未来を見ていらっしゃるんですね。その構想についてお聴かせください。

 

 

高畠で新規就農者を増やすために

 

―高畠でも、やはり後継者問題は深刻ですか?

うん、まず若者の後継者がいない。
感覚的には、若者が1人就農する面積を1とすると、対して辞めてしまう面積が5~10とか、そういう勢い。

でも高畠には指導者がいる、葡萄買い取り業者がある、農地が余っている。支えてくれるワイナリーも全国にある。
あとは人だけ。人が来るのを待っている。

ただ、受け身でいても何も変わらないでしょ?だから企業のバックアップを受けて醸造用葡萄の産地化を目指す。
そのための準備に、葡萄買い取り業者の農彩土さんと奔走しているところ。

俺は早く力を付けたい。やりたいことをできるようになることが「力をつける」ということだから。

 

株式会社 農彩土さんの存在と繋がり

 

―農彩土さんとの会食に私も参加させていただきましたが、お二人のお話を聴き、農彩土という会社の役割・意義の大きさに驚きました。その重要性をかいつまんでご説明いただけますか?

歴史的に葡萄農家って大手の契約栽培が多くてね。大手の意向一つで作った葡萄を買ってもらえなかったり、契約を打ち切られた経緯があって。それをやめませんか?と。

これを実現するのに必要なのが葡萄を買い取る業者だったんだけど、今はそこを農彩土が担ってくれてる。
流通を安定させ、かつ価格も安定させようという動きが農彩土の始まり。生産者を守り、ワイナリーと繋ぎ、業界全体が発展していくのが理想。

気象条件や社会の変化でこの三者のどこかが落ち込んだ時にはそれぞれ助け合いましょう、というのが本筋ね。
この精神を理解した者で”農彩土グループ”的な互助会を作っていきたい。そうするとみんなが上手く回るし、むしろそうしないと食っていけなくなりかねない。

ただ、今は農家とワイナリーを繋ぐ程度にしかでき上がってなくて苦労しているけどね。
ワイナリーさんも巻き込んでより良いものを作る!そんな大それた目的で動いているんだと思うと楽しいよ。

 

―農彩土の代表・村越圭太さんとはとても良い関係を築いていらっしゃいますね。なぜ小川さんは農彩土さんとそこまで密なのでしょう?

先代の代表だった圭太君のお父さんとお兄さんが相次いで急逝されてね。右も左も分からないまま後を継承した圭太君に、就農したてでこれまた右も左も分からない俺が協力してきたからかな。

―お二人は前向きな強さ・潔さが似ていらっしゃる。ごちゃごちゃ言わず自分の言動には責任をとるまっすぐな姿勢が共通している。

そう?確かにお互い嘘はつかない正直な人間。5年の付き合いで関係は醸成されていて、今やビジネスパートナー以上の存在。男同士の信頼関係があるかな。

お互い立場は違うけど、意味のないことはやっていない。恵まれてるよね。

とにかく農彩土は葡萄農家にとって心強い存在。他にないからね、こういう会社。新規の方でも安心して就農できる状況作りを担ってくれてるよ。

 

高畠という町について

―高畠がこれほど美しくまた歴史的に面白いところだとは思いませんでした。小川さんから見た高畠町はどんなところですか?

そうだな…いい人がいっぱいいるところ。そんなに人に会わないけどね(笑)
置賜地方は雪が多い程度で自然災害はあまり記憶にない。だから人がのんびりしているのかな。

本気の人にはとても優しいところだよ。俺は地域の皆様が支えてくれるからやれてるんだ。

新規就農者の受け入れ態勢も整っているし、住みやすいんじゃないかな。

畑に行くまでの道が気に入っていて、田植えと稲刈り前は本当に綺麗なんだ。 これはそこで撮れたキセキの一枚(笑)

 

―これから農業をやってみたい方に一言お願いします。

もちろん覚悟は要る。でもそれはどんな業界への転職も同じことだよね。

だから俺が声を大にして言いたいのは

農業はつらくありません!!

それなりの労働でそれなりの報酬をちゃんともらえるお仕事です!

これは裏返すと頑張った人はどこまででもいけるという意味で、本当にやりがいがあるから。

 

 

農家になりたい方必見!葡萄栽培家の日常

―小川さんの一日の過ごし方を教えてください。

季節によって時間はずれるけど、大まかにいうと

4~5時:起床

5~8時:朝仕事

8~9時:朝食休憩

9~12時:昼仕事

12~13時半:昼食休憩

13時半~17時半:午後仕事

18時:帰宅、夕食

という感じ。

―労働時間が長くありません?

ずっと全力で作業しているわけじゃないからね。休息しながら自分のペースで働いてる。農家の息抜き術ってすごいんだぞ?だから大丈夫。
それに今の時期は9時~16時の超ホワイトだよ(笑)

―小川さん、ちゃんと休んでますか?休日はどのくらいあるのでしょう?

葡萄農家としては後発だから、皆が考えないようなことまでしておいて頑張りすぎのような気はしてるかな。先々のクレーム潰しとく的な。

完全な休日は年に…何日あるだろ?でもいいんだ、畑は俺の趣味でもあるからな。
ふつうはちゃんと休めるので安心してください(笑)

 

―ところで小川さんは作業の終わりに「3年日記」を付けていらっしゃいますね。事務所の居間で正座をして日記帳に向かう姿が印象的でした。どんなことを書かれているのですか?

日々行った作業や、気付いたこと・感想を記入している。より良いものを作ろうとしている農家さんはみんなやってるんじゃないかな。

 

小川さんの3年日記

 

 

「自分に感動を」

―ここまでまだ触れていないのですが、実は小川さんとお話してきた中でとても光っている言葉があるんです。小川さんの本質を象徴していると思えるような台詞です。

何だろう?

「自分を感動させたい」とおっしゃいました。自分の心をごまかすことはできないから、小川さんほど自分に厳しい方がそう思えるのは余程やり切った時ではないかと。

そうか…。
俺、今までまだ一度も、何事にもめげずにやれてると思ってるんだけど。

―素晴らしいです。

めげたら怖いからね。

―確かに。

夜の世界にいた頃は、何をしていてもずーっと怖いような感覚があってさ。
よく分からない怖さなんだけど。それが出てこないように、否定しようとして頑張るというか。

―はい。

でも農業始めてから思いついたんだけど、自分が感動できなくて何かしら伝わるものってあるのかな?と。

―おお!

勝ち負けは関係なくて、やれたことだけが評価される世界。そうなるためにどうしたらいいのかを追求したら、「自分を感動させたい」ということになった。

―なるほど。

農業にはそんな前向きになれるパワーがあるよ。

 

―では最後に、今の気持ちを率直にお願いいたします。

できるだけ皆様を喜ばせたいなあ。
今、バーテン時代までの人間関係が全部繋がって、そこから更に拡がっていくという「物語」になっていて、本当に驚いているんだ。 20年以上の歳月を越えてベクトルが同じ方を向いているのが、嬉しくもありありがたい。

義理も不義理もしてきたから、人にも自分にも厳しい20~30代を経て関わってくれる人達には本当に感謝しています。

 

 

農業に無知な私が記事を書くために、小川さんには多大なご協力をいただきました。

小川さんは無理がきいてしまう方なので、ご自身を大切に「全部知り尽くす」をぜひ実現させてほしいと思います。

どうもありがとうございました!

・小川徹農園の詳細はこちら⇒小川徹農園Facebook

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